『最愛』最終回は終わらない

TBSドラマ『最愛』が終わりましたね。終わっちゃいましたね。



・最終回について
(以下ネタバレしてます)










加瀬(井浦新)が事件に何ひとつ絡んでなかったら「そりゃないだろ!」と言ってただろう。

井浦新が良い人なだけで終わるわけがない。
3つの事件のどれかには絶対関わってるはずと信じていたので、
この結末には「だよね」という気持ちと
いや15年前の台風の夜からなんかい…そんで事件全部やったん…
という納得と戸惑いが半々だった。






あそこまでする?

お世話になってる梓(薬師丸ひろ子)の元夫と子ども達のこと、あそこまで人生かけて尽くせるもの?
と、ちょっと置いてかれてしまったところがある。

常々、梓が「加瀬くんも家族」と言っていたことや
加瀬自身も梨央に「家族と思ってる」と発言していたこと、
話数を重ねるごとに真田家に対する加瀬の献身的な仕事っぷりも
これでもかと見せつけられてきた。
よって、真田家と加瀬の信頼関係の厚さは理解できるものの
それにしたって、である。

優(高橋史哉)が逮捕され加瀬が弁護してた時もそう。
「なんでそこまですんの?何か明るみにされたくない秘密があるんじゃ?」
と、よぎった人は少なくないはず。

これらの腑に落ちなさは、加瀬という人物の背景が不明瞭だったことに要因がある。

加瀬に家族はいない。
幼い頃に亡くした、という説明セリフがあるのみで細かなエピソードはなかった。
弁護士になった理由も
「近所に弁護士のおじさんがいて、みんなの相談に乗ったりしてたのを見て自分も人の役に立つ仕事がしたいと思った」
と、これもこのセリフのみで、ほかにエピソードは特になかったと記憶している。


達雄(三石研)に対し「あんなに家族を想う人を僕は知りません」と、敬意を持つほど肩入れしているのも何故なのかよくわからない。
あの台風の日の達雄のあの言葉だけで、死体埋めるの手伝える?梓の代理で達雄と定期的に連絡したり会ったりしていたとして、以前から達雄に父親像を投影していた?好感を持っていた?単に真田家に関わる人物だから?もしかして達雄が加瀬の本当のお父さん?


観ている私たちは、この事件に加担したのは加瀬の生い立ちが起因するとは理解している。
というか、情報としてただ知っている程度なのだ。

その生い立ちが彼の人生にどう影響したのか、どうやって加瀬という人物が形成されてきたのか、今の彼が何故、これほどまでに真田家を守ろうと必死なのか、すべてが想像するしかないのである。

なので
「達雄の想いに胸打たれて、そりゃ死体埋めるの手伝っちゃうよね…泣」
とまでは、どうしても気持ちが追いつけないのだ。わからないことが多すぎて。


大企業の顧問弁護士をするほど仕事のできる沈着冷静で頭の回転が速く賢い加瀬が死体遺棄及び証拠隠滅を手伝うわけだから
よほどのことでなければならない。

あの台風の夜、父親の愛を目の当たりにして
己の人生を捨てても
「役に立ちたい」
と心が変化してしまった瞬間。
あの時から、加瀬はまさに全身全霊をかけて真田家の人間を守ることになるのである。
そうなるまでの、加瀬の心理描写がもう少し表現されても良かったのでは。というか知りたすぎる。

犯罪に加担し自らも殺人を犯すほど守りたい「最愛」への熱情は、
このドラマで最も表現したい大事な核となるものである。
なので、納得させて欲しかった。



そもそも初めから加瀬という男の人となりが掴めなかったので当然の結果と言えばそうだTwitter見るとそんなこと言ってる人いなかった。読解力の問題かもしれない)。
後藤さん(及川光博)のほうが、やった事のわかりやすさもあって、よっぽど理解できた。


梓のこともよく分からなかった。
最初から最後までいつもニコニコしていて、何を考えてるかわからない、優しいようで冷たいような印象。観ている側に「何かある」と思わせるための演出だろうけど。
会社と家族を守るために自ら謝罪会見した時はTwitterでも好意的な意見感想ばかりが見受けられた。
しかし最後の最後(後藤さんが面会に来たシーン)までも、何か裏があるのでは?と期待していた自分は、本当にただ己の性格の悪さを再確認する結果に終わった。
(刑務所でも尚ニコニコする梓に、ゾッとするようなセリフを言って欲しかった)



藤井(岡山天音)という男についても書かなくてはならない。

藤井、あんな使い方で、合ってた…?
最初から「藤井は怪しい」と観ている全員から思われてた藤井。
怪しさ満点。謎満点。怖さ満点。
これも岡山天音さんの演技が素晴らしいからです。彼が画面に現れるだけで空気が変わる。

結局、藤井の最愛は陸上部だったのだが
藤井に対する制作側の考えと観ている側の期待にズレがあったのは否めないと思う。

藤井をあれだけ露骨に怪しい、事件に関与してそうと思わせる描写がいくつもあった上に、あの岡山天音であるから(Twitterでは達雄の葬儀で藤井が足を引きずっていたのは事件と関係あるのでは?と見つけた方もいた。凄すぎる)
間違いなく物語に深く関わっているはず、そうであってほしいと思わせたのは間違いない。

観ている側は、藤井に、狂った愛とか猟奇的な奴とか、そういう役割を期待したし(岡山天音にやってほしい…)

逆に
「怪しいと思ってたけど犯人じゃなかったー!藤井にはそういう理由があったのかー!」などと膝を打つくらいの衝撃的な真相が明かされないと、怪しさ120%と相殺されない。

たしかに藤井の個人的な捜査のおかげで事件が大きく進展したので役割としてはかなり重要なのは間違いないけれど
これじゃない…肩透かし感がすごかった。
なんか最後もフェードアウトだったし。



色々書いたものの、
あの登場人物の多さと複雑なストーリーを
限られた話数で完結させるには相当な努力と困難があったことは容易に想像できる。
本当に楽しませてもらいました。ありがとうございましたと言いたい。
最後に、
あのスケールで全9話は短すぎる!どう考えても12話!


コロナ禍の閉塞感が続く生活の中
わくわくドキドキしながら毎週楽しみにしていた今季唯一のドラマでした。
Twitterでは色んな人の考察を見まくったし、
金曜の夜は興奮しすぎて布団に入ってもなかなか寝付けなかった。
最愛のこと考えるの楽しかったなあ。
ブログ書くために、Twitterで最終回考察読むの我慢してました。私の最愛はまだ終わらない。

(このドラマを語る時、同じ製作陣の『Nのために』が引き合いにされますが私は圧倒的に『眠れる森』(フジテレビで1998年10月〜12月木曜10時から放送されたいたサスペンスドラマ。木村拓哉主演)を思い出していました。あれもかなり面白かった)