エルピス最終回を観た

嬉しかった。

 

現実で日本で社会で生きてる私たちが今、

向き合わなければいけないことを提示して

ドラマとしてちゃんと面白くて

まさみと郷敦は恋仲にならなくて

話の着地も完璧だった。

 

鑑賞後しばらく、そのことしか考えられなくてボーッとしてしまった。それほど感動していた。

 

 

超個人的な問題で出演者や脚本家、スタッフに好きな人がいないと(しかもそんな多くない)

ドラマというもの自体を観ない。

 

関テレ月曜夜10時放送『エルピスー希望、あるいは災いー』(以下エルピス)に興味を持った理由は

・プロデューサーが佐野さんだから。

・たまたま観た番宣がカッコよかったから。

・音楽が大友(良英)さんだから。

である。

 

佐野さんが作るドラマは観たことがあった(『カルテット』と『大豆田〜』)ので、多分面白いだろうと思ったし観る前から

「このドラマは間違いない」

と何より確信めいたものをくれたのが

音楽担当の大友さんの存在だ。

 

私は元々クドカンのドラマは好きで

NHK朝の連続ドラマ『あまちゃん』が放送された時、

大友さんが生み出すその音楽の凄さに感動した。

余談だがドラマ放送当時、私は出産したばかりで新生児の世話に追われ毎日寝不足状態だった。第一子で全てが初めてのことに24時間常に緊張しており、夫は「育児と家事は手伝う」スタンスを頑なに崩さない割に口うるさく、たまに育児参加すれば不注意から子どもに怪我させたり無自覚な意地悪をして泣かせたりする謎の思考回路を持つ人だったのでケンカばかりした。両親とは関係が悪く、ママ友もおらず、心から頼れる人はいなかった。今思えば産後うつだったかもしれない。

 

朝、テレビをつけて『あまちゃん』の、あのオープニングが流れると

めっっっちゃくちゃ元気がでた。

あまりに沁みて涙する日もあった。

 

それから数年後、NHK大河ドラマ『いだてん』でも

オープニングが、めちゃくちゃカッコよかった。わくわくした。

 

映像と音楽の融合。バチーッ!と合わさった時のゾクゾク感。

それにオープニングがカッコいいドラマは良いドラマと相場が決まってるんです。

 

実際、エルピスの音楽は私の期待を大きく上回っていて

オープニングは鳥肌が立つほどカッコよかった。

何度も巻き戻しては再生した。

痺れた。

 

しかしこのドラマの素晴らしさは、これだけではなかった。

 

まず岸本拓朗役・眞栄田郷敦さん。

彼、本当に素晴らしかったですね…

何ですかあの華は。演技してるの初めて観たのですが存在感どんどん出してくるしキャラは魅力的だし。

最初は、ただ顔が良いだけのお坊ちゃん薄っぺら業界人だったのが

闇堕ち覚醒してオーラまといだして

その変わりようがもう凄すぎて、とても惹き込まれてしまった。

 

斎藤正一役の鈴木亮平さんも、

いる!こういう人いる!(見た目爽やかで頭の回転早くて仕事出来て性欲強そうで野心家で無慈悲)て感じで、とても怖くて、とても良かった。

恵那を止めに来た時のあの説得力、あり過ぎて引いたね…政治家の申し子…

 

 

これまた超個人的に、今まで長澤まさみは「演技が巧いのか下手なのかよくわからないけどとにかく可愛い」枠の人だった(あまり作品を観たことがないので…)。

その彼女もまた、作中のキャラクターを真摯に演じきった(顔色悪い!クマ、シワも隠さない!!)

ドスのきいた声で「何で殺されなきゃいけないのよ!」と岸本に言い放った恵那は、泣けた。

 

かつての恋人、斎藤との対峙にも決して怯まず屈さず、負けなかった。めちゃくちゃかっこよかった。

(興奮しながら岸本からビデオ受け取ってハグしてビンタしたの吹いた)

もう斎藤の話し方が完全に政治家。約束してるようでしてない。フワッとしたこと言ってるのに、印象はちゃんと約束したみたいな空気出す。怖い!!

結局、麻生…じゃなくて大門の事件は報じられず、

代わりに八頭尾山殺人事件を報じることを了承させた恵那は、勝ったのだ。絶対に。力技で押し通すのではなく戦い方を変えて、勝った。

 

 

脇を固める役者さんたちのことも言いたい。

大人計画の池津さん、最高なんだよな。

公園さんの長いものに巻かれプロデューサー役も似合ってた。

松尾ちゃんもあんなふうに伏線回収し(この言葉あんまり好きではないのだが他に何て言えば?)再登場した時は思わず自分も岸本の気持ちになっちゃって、ちょっと感動した。

三浦透子さん、三浦貴大さんらも演技力抜群で役にハマってて安心して観ていられた。

(チェリーさんに関してはなんか裏切ってたりどんでん返ししてくるのではと疑っていた。エンディングがそんな感じしたので…普通の良い子だった)

 

エルピスの裏主役、村井さん(岡部たかし)は第1話からあの長澤まさみに「ババア」と言い放ち、岸本たちスタッフには暴力暴言の嵐で、絵に描いたような嫌なやつ、悪役だった。この役者どんな気持ちで言ってんだろう…と私を心配させたのだが

回を追うごとにどんどん人間味増して今やネット上で一番人気なのではと思うほど評価が真逆になった人物である。

 

大盛り牛丼をかっくらう恵那と岸本(なんて美味そうに食べるんだ郷敦)の元に村井さんがやってきた時の、2人のあの笑顔は

小さい子どもが完全に安心している、心を許している人へのそれと重なる。

人間を一言では語れない。恵那は村井さんから報道の正しさを学び、岸本は社会を、人生を教わった。

 

恵那も岸本も過去の失敗や罪悪感から強い正義感を持つ人間になったのなら、村井さんのそれは、一体何が生み出したんだろう。それとも生まれ持ったものだとしたら、村井さん、ヒーローじゃんか。

村井さんという人の厚みを毎回よく想像させられた。

岡部たかしCMが決まると思う。

 

 

 

エルピスは、政治や報道がテーマの海外ドラマと比べれば別に革新的ではないという人もいる。

 

昨今のまるで機能していない国の無茶苦茶なやり方に忖度だらけの報道。

目に見えているものだけが全てではない、与えられる情報がすべて正しいとも限らない。

私たちはそれを踏まえて、自分で知識を蓄え何を信じるべきかを慎重に選び、深く考え、そして行動しなくてはならないのだ。権力に対して違和感、怒りを覚えることは決して間違いなんかじゃない。そしてそれを声にするべきなんだと、当たり前と言えば当たり前なことを、けれど私たちが失いつつあるかもしれないーー心の中で一番大切なものーーを

このドラマが、諦めず必死に、力強く示してくれたこと。

あれだけの役者とスタッフを揃えエンタメとして丁寧にめちゃくちゃ面白い作品にしてくれたこと。

 

 

ドラマ好きな人からすれば、私の見方は極狭だろう。

でも、エルピスは「それでいい」と言ってくれるドラマだった。

どんな風に観ても良いから、どんな感想でも良いから、とりあえず観て。と。

 

この人たちが作るなら間違いなく面白いはず、

そう思って観始めて、最後まで観て、良かったと思える「信頼」。

日本でもこんな面白いドラマが作れるんだ!という「希望」。

 

最終回を観てこんなに満足したのは久々でした。

ありがとうございました。